第一夜

 

こんな夢を見た。

 

 夢の中の私はまだ学校に通っている。といって過去のいつだかの時分に戻ったというわけでもなく、とっくに大学まで出てしまったことを頭のどこかで覚えている。それでいながら、これから学校に行こうとしている矛盾を奇妙にも思わず承知している。

 私は朝早くに家を出る。だがこの日の私には、学校の前に寄らなければならないところがある。なぜだか理由はわからないものの、役所に呼ばれているのである。

 迎えが来るという話なので私は家の前で待っている。と、タクシーがやってきて目の前で止まる。どうやらそれが迎えのようなので後部座席に乗り込むと、まもなく車は動き出す。

 私は何の気なしに運転手を見る。すると驚いたことに、それは私の高校時代の恩師である。すっかり驚いて、どうして先生がタクシーの運転をしておられるのですかと尋ねると、先生は何をおかしなことを言っているのだと言う。それでよくよく見ると先生は運転手の格好などをしていないし、車もタクシーではなくごく普通の乗用車になっている。

 私は狐につままれたような妙な気分を味わい、同時におかしなことを言ってしまったという、いたたまれなさも感じている。そのため何も言えなくなってしまうのだが、先生もまた何も言わないので、車内は妙な具合に沈黙に包まれてしまう。私は気まずくなり、何か話題はないかと探すが、焦るばかりで一向に何も思いつかない。

 私は仕方なく寝たふりをする。そうしていかにも眠いという風を装っていると、実際に朝が早かったせいもあって、そのまま本当に寝入ってしまう。

 ……。

 

 どれ程寝ていたのか、私は車の振動で目を覚ます。見ると車はちょうど鉄道の踏み切りに入ったところである。

 窓から外を見ると、車の進行方向から見て左の側に、少し距離が離れて小さな駅舎が目に入る。それを見た私はその駅をよく知っているような、あるいは全く知らないような、相反した印象を同時に受ける。

 と、先生が踏切内で突然ハンドルを左に切ったので、車が線路に乗り上げてしまう。私は驚くが先生は構うことなく駅に向かって車を走らせる。その突飛な行動に私は戸惑うが、先生があまり堂々としているので(或いは自分が知らないだけで、ここではこれが普通なのかもしれない)と思う。実際その考えは間違っておらず、車はスロープを通って線路から直接駅のホームに乗り入れる。

 ホームの真ん中辺りで止まったので私は車から降りる。そしてここが目的地なのかと見回していると、先生も降りてきてそれは違うと言う。

 先生は何かを指差す。見るとそこには細い棒のような柱のようなものが立っている。柱の上部には細長い板切れのようなものが何枚か打ち付けられていて、一見すると道路標識のようにもみえる。私は何故か、そこに私の目的地が書かれているのだと受け取る。

 私は板に記された文字を読む。覚えているのは四枚で、上から『6ヶ月先』『9ヶ月先』、『東京』『大阪』と書かれてある。

 私は意味を解しかねて先生に尋ねるが教えてもらえない。代わりに先生が言うには、今からここに私の保育園時代の同窓生が集まるのだという。私はそれを聞いてますます当惑する。というのも、当時の同窓で付き合いがある者などいないからである。

 私と先生は駅舎の中に移動して同窓達を待つことにするが、私は内心落ち着かない。そこに一人の年配の男に先導された、二列に並んだ人々が私に近づいてくる。見るとその先頭の男にこそ見覚えはないものの、列の人々はたしかに私の同窓のようである。

 その時、全く唐突に、私は全てを理解する。つまり、私は死んだのだ。ここに集まった人々は私を含めて皆死んでいる他ならぬ、私たちが死ぬ順番がついにやってきてしまったのだ、と。

 その時、彼らを先導してきた男が私のところまで来る。彼はなにやら細長い、真っ白な薄い紙のようなものをその手に何枚も握っていて、それを私に差し出す。見ると私以外の同窓達は皆が一枚ずつそれを持っている。

 私は何の気なしにそれを受け取る。そして(あ、しまった)と思う。これで自分は本当に死んでしまった、もう取り返しがつかないのだ。そして残念に感じるが、まあ仕方ないかとも思う。

 私は(これで自分は死んでしまったわけだが、一体どんなことになったのだろう)と思う。それで私を駅まで送ってくれた先生見ると、どうやら先生の目には私が見えなくなってしまったらしい。それどころか私のことをすっかり忘れてしまったと見えて、辺りを見回して「なんでこんな所にきたのだろう」などと呟いている。

 私はそれを見て、ああ、たしかに自分は死んだのだなと思う。

 

 ……その夢があまりに真に迫っていたので、目が覚めて自分がまだ生きているようだ理解した時には、まったく妙な気がした。およそ現実にはありえない展開ではあったが、小説や童話などではわりとありそうな筋書きではあるし、何よりその夢は真実性を――現実的な世界におけるそれではなく、神秘的な世界における――をはっきりと具えていたからである。

 今も私はそれを正夢、あるいは予知夢のようなものだと信じている。それで色々と解釈を試みたのだが、おそらくこういうことなのろうと結論付けた。目的地が記されていると私が思いこんだあの奇妙な標識は、しかし私の行き先を示していたのではない。東京や大阪というのはわからないが、『6ヶ月先』『9ヶ月先』というのはおそらく、この夢が正夢になる時期を示しているのだろう

 つまりヶ月先、あるいは九ヶ月先に、私は死ぬのだ。

 

 この夢を見たのは、昨年の11月である。

 だから今年の月、あるいは月に、私は死ぬのだろう。