第二夜

 

 こんな夢を見た。

 

  場面一

 

 山上に聳える城で、盛大な宴が催されている。その城には普段は家臣の侍や使用人しか入ることが出来ないが、それは特にめでたい祭礼であったので、この期間だけは特別に自由な出入りが許されることとなった。

 城主の粋な計らいに、民は喝采の声をあげた。日頃は山の麓から見上げるばかり、いやそれすらも畏れ多いと憚られるほどの城である。城下の人々は大いに喜び、寛大なる城主を褒め称え、当日にはこぞって城に参上した。そうして今宵ばかりは無礼講と、武士と町民が入り混じり、中庭に設けられた宴席に篝火を焚いて、夜が更けた後も大いに騒いだ。

 一方、そんな山上の騒ぎを他所に、麓の洞窟では一人の男が居残り、懸命に鋸を振るっていた。

 山の麓には長大な横穴があり、最奥には謎めいた木の柱が埋まっている。それはあたかも洞窟の床から生えるように伸び、天井をまっすぐ貫いていて、まるで洞窟が崩れないように支えているようにも見える。誰が埋めたという伝承もなく、そもそも人の為した業とも思われない。由緒も因縁もわからない、正体不明の柱なのである。

 男はその柱を伐り出そうとしている。それを伐り出して太鼓の胴とし、山上に妙なる音を響かせ、此度の宴の一興とせよというのが、他ならぬ城主の命なのである。

 男は焦っている。日は既に沈んでしまった。山上は大いに盛り上がりを見せているようだが、それも永遠には続くまい。祭はほどなく終わるだろう。そうして祭が果ててしまえば、宴の席に鼓の妙音を響かせよという城主の命に叛くことになってしまう。すれば男の首は飛ぶ。

 男は一心不乱に鋸を挽く。時間は刻々と過ぎてゆく。穴の中にいる男にはもう、今が何刻なのかもわからない。今にも誰かがやってきて、「もう祭は終わった」と致命の知らせを告げに来る気がする。いっそ泣き出したいのを堪えつつ、男はそれでも手を動かす。

 と、必死の思いが通じたのか、やっとのことで男は木を伐り出すことに成功する。

 その刹那。山体は鳴動し、浮かれ騒いでいた人々もろとも、山は一挙に崩落する。

 

  場面二

 

 崩れた城を修復すべく、腕の立つ工人達が雇われる。彼らは血縁で繋がっており、古くから築城を生業とする工匠一族とて、広く知られた者達である。特定の居所を持たず、依頼がある度に一族もろともその地に移り住み、城が完成するとそこを離れる。一種の流浪の民である。

 彼らが依頼を受けるには一つ奇妙な条件がある。それは、一日の賃金は必ずその日の内に支払われねばならないというものである。そこで城主は彼らにこんな提案をした。

 城には代々の城主が収集してきた、古今の珍しい貨幣を収蔵した部屋がある。お前たちは一日の作業が終わる毎、その日の働きに見合うだけの価値のある貨幣を選び、そこから持ち出すがよいと。彼らはその提案を受け入れた。

 それ以来、工人達は一日の作業の終わりに、代々の城主の膨大な収集品が納められた、その収蔵部屋に入る。そして一つ一つ丁寧に箱に詰められ、詳細な由来書きまで付されたそれらを慎重に検分し、その日の働きに見合った報酬を物色する。

 時が過ぎ、城の修理は順調に進んでいる。工人達は黙々と働き、相変わらず一日の終わりに彼らの眼に適った報酬を手に入れ、持ち帰る。彼らはその取引に満足している。

 だがその裏で、この一族はある理由から、密かに城主を恨んでいる。

 

  場面三

 

 城壁に囲まれた城の中庭に水が引かれる。一面に水を湛えた庭の中央には古風な舞台が設えられ、今はそれだけが水上に浮かんでいる。舞台の上の役者の舞を、水に浮かべた船から眺めるという趣向である。だが今は誰の姿もない。

 と、どこからともなく、一人の男が姿を現す。男は舞台の上で舞い始める。しかし彼は役者ではなく、城主その人なのである。

 城主は見事な舞いを見せながら、ごく自然な動作で舞台から飛び、ヒラリと水の上へと降り立つ。そうして次の瞬間には、龍の姿に変じている。城主の正体は龍である。

 龍は狭い舞台を離れ、満々と水を湛えた中庭を優美に闊達に飛び回る。それはまるで、舞の続きのようである。しかしその姿を見る者はない。

 やがて、一頻り舞った龍は満足そうに天を見上げると、そのままするすると宙へと浮かび、高い天を指して去ってゆく。