第五夜

 

 まだ、実家を離れていた頃……。

 こんな夢を見た。

 

  場面

 

 一人暮らしをしている私のところに実家から連絡が来て、至急戻れという。何やら大事な話があるらしい。何事が起きたのかと、私は急いで実家に戻る。

 私は久しぶりに自宅の戸をくぐる。そうして居間に入ると、他界した父を除けば全員、家族がその場に揃っている。

 帰宅したばかりの私を加えてさっそく家族会議が始まる。その時、(私を除く)皆が母を見たので、話があるのはどうやら母なのだとわかる。彼らの表情から察するに、既に私以外は事情を承知しているらしい。

 私は内心、「まさか宇宙に行きたいなどと言い出すのではないだろうな」と危惧する。すると母は案の定、実は宇宙に行きたいのだと言う。あまりにも予想通りだったので私は思わず笑ってしまう。

 この突拍子もない要望について皆で話し合う。私には無謀に思えるが、他の皆としては母の希望を叶えてやるつもりだと言う。私もその意向に従う。

 私達は、どうすれば母の望みを実現できるか意見を出し合う。しかし良い案がでない。そこで母が言うには、どうせまっとうな方法(宇宙飛行士を目指すなど)で自分が宇宙に行ける筈はないのだから、宇宙人を探して欲しい。地球には人間のフリをした宇宙人が紛れ込んでいるので、彼らに頼んで宇宙船に乗せてもらおうという。

 他に良い意見もないので、私達はその意見に従うことにする。が、どうやって宇宙人を探せばよいのかわからないので、皆はやはり当惑する。

 しかし口にこそ出さないが、実は私には心当たりがある。

 

 私は大学時代の友人であるXと連絡を取り、喫茶店で落ち合う。そして久しぶりに顔を合わせたこともあり、共通の知人の話題などで盛り上がる。

 しかし私は内心、このXが宇宙人ではないかと疑っている。

 頃合を見計らって私は本題を切り出す。母が突拍子もないことを言い出して困っていると言うと、Xは興味を抱いた様子を見せる。

 私は慎重に、できるだけなんでもないという口ぶりで、「母が宇宙に行きたいのだ」と言う。Xは「へぇ」と言う。

 私の疑いを知ったら、相手はことによったら怒り出すかもしれない。そう危惧して友人を窺うが、Xはまるで何でもなさそうに私を眺め、話の先を促してくる。

 私は慎重に口を開く。宇宙に行くといっても、まさか宇宙飛行士になれるわけもない。そこで地球に紛れ込んでいる宇宙人を探し、宇宙に連れて行ってもらおうと考えているのだ、と。ただし、その宇宙人を探すことが難しい。

 Xから視線を逸らしつつ、私はなんとかそれだけを言う。

 見るとXは何も言わず、ニヤニヤと厭らしい感じで笑っている。私は息苦しさを覚える。そしてあまりに気詰まりなので、諦めて話を変えようとする。声が出ない。私は慌ててグラスの水を飲み干すと、改めて声を出そうとする。

 しかしそこには既にXの姿はなく、代わりに見たこともない生物がいる。

 

 気が付くと私は自転車に乗っている。それも普通の自転車ではなく、サドルの高さが異様に高い。建物の三階か、四階ほどの高さで、当然、バランスを取るのが難しい。

 私は真直ぐに進むのも困難なそれに跨り、危なっかしくペダルをこぎながら、フラフラと道を走っている。と、どこからかXの声が聞こえる。

 ――君には罰として、その自転車を漕いでもらう。倒れずに家まで帰れたら、君の頼みを聞いてあげよう……。

 私は泣きそうになる。家まではまだ五百メートル以上はある。とてもそこまで倒れずに行けるとは思えない。

 不安定な自転車を操り、何度も冷や汗を掻きながらも、私は周囲を見回す。しかし辺りにはつかまることのできる高い樹もなければ、建物もない。そして並の自転車ならばとにかく、こんな高さから倒れればむろん怪我ではすまない。

 と、自転車が大きく右に傾く。私は慌てて立て直そうとする。だが間に合わない。……一瞬、宙に浮いたような感覚……。私は必死にハンドルを握り……ゆっくりと、しかし次第に速く、私は横倒しになり……地面に向けて落下してゆき…………。

 そこで目が覚めた。