第四夜

 

 

 こんな夢を見た。

 

  場面一

 

 私はどこか遠い南の島の原住民になっている。時代も現代ではなく、どうやら百年以上は前らしい。或いは過去世かもしれない。

 私には既に子供がいる。サラという十歳前後の利発な娘で、私はサラと二人で海辺に生えた樹の下で暮らしている。サラの母親(つまりは私の妻)が何故いないのか、どうして他の島民と離れて住んでいるのかはわからない。

 食事の後、私は小屋でくつろぎながら娘の話に耳を傾けている。サラは床に寝そべり、私の方を見上げてこんな不満を零す。

 島は少し以前から異国(西欧のどこからしい)に半ば支配されている。サラはその異国から派遣されてきたカピタン(司令官)の屋敷で小間使のような役についているのだが、そのカピタンが意地悪をするので、もう食事を作るのは嫌だと言う。

 「だってあいつ、私の鼻に豆を入れようとするのよ?」

 娘の愚痴に私は苦笑する。そして唇を尖らせるサラに対し、「たとえ気に入らない相手だろうと、腹を空かせては気の毒だから、ちゃんと食事の世話はしなくてはいけない」と嗜めようとする。しかし私が娘を見下ろし口を開こうとすると、サラもまた私の顔を見上げているのに気付く。

 私はサラの瞳を見る。娘の瞳は普通とは違う明るい金色で、宝石のような輝きを帯びている。私は自分の娘ながら、満月のように輝くその神秘的な色の瞳に魅入られると、何も言えなくなってしまう。

 私は出しかけた言葉を呑みこみ、代わりに娘の背中に垂れる、長く艶やかな黒髪を撫でてやる。サラは機嫌を直しくすくすと笑う。

 

  場面二

 

 島の人々が祭りの準備をしている。それは島民達が仮装して島に伝わる神話を再現するという祭りで、毎年行われているものである。その神話とは、世界や人間を生んだ善の精霊が、人間を苦しめる悪い精霊を退治してくれるという筋である。

 それはまた、遠い昔に実際にあった戦争が物語となり、後世に伝わったものだとも云われている。

 そしてその祭りには、彼らを支配する異国の人々も招かれる。

 人々は祭りの準備に余念がない。異国の人々に振舞われる祝いの酒も、いつもよりも余程多く用意してある。古代の神々の戦争を再現するための武具の手入れにも余念がなく、いつになく力が入っている。

 その実、彼らは叛乱を企てている。

 

場面三

 

 祭りの当日、私はカピタンの屋敷に呼ばれる。サラの話によれば、カピタンが私を食事に招いているのだと言う。不可解に思うが断るわけにもいかず、食事の用意があるからというサラに少し遅れて、私は一人で村に向かう。

 ほどなくカピタンの屋敷に着くが、誰も出てくる気配がない。私は奇異に思い中に入るが、やはり人の姿を見かけない。

 と、屋敷の奥から女の声で悲鳴が上がる。それはサラの声である。私は恐ろしい予感に駆られ、動転しつつも駆け出す。

 奥の部屋に駆けつけた私は愕然とする。そこは寝室らしいのだが、まるで暴漢が入った後とでも言うように物が散乱している。そんな荒れ果てた部屋の中央に立っているのはカピタンで、私の姿を見て驚いた表情を浮かべる。

 私はサラの姿を探す。と、カピタンの足元に蹲っている娘を見つける。娘も私の来たのに気付き、救いを求めるように私を見上げる。その顔は青ざめ、震える手ではだけた衣服を抑えている。

 私は娘の姿を見ると怒りに震え、短剣を手にその破廉恥な男に飛び掛る。そして何やら喚いているのに構わず、一突きにその胸を刺す。カピタンは信じられないといった顔で胸に刺さった短剣を見下ろすと、血飛沫を上げながら倒れ、そのままもう動かなくなってしまう。

 一時の激情が鎮まり、物言わぬ死体の形相を見ると、私は途端に怖くなる。呆然と自分の手を見下ろし、血塗れになっているのを見て動転して剣を取り落としてしまう。

 私はサラの方を見る。と、もう衣服を整えていたサラはなぜか美しい女になっている。そうして驚いている私を余所に、落ちた短剣を拾うと、再び私の手に握らせる。不可解な行動に私は戸惑う。

 その時、屋敷の外から大勢の人間の足音が近づいてくる。私は自分を捕らえに来たのだと恐れるが、現れたのは異国の兵士ではなく、自分と同じ島の仲間である。彼らは手に手に武器を持っている。

 彼らはまず私を見て、そしてカピタンの死体を見つけて驚く。すると事態の呑みこめない人々の前にサラが進み出て、私を示して言う。

 「皆さん、喜んで下さい。悪しきカピタンは斃れました!ここにいる私の父が、勇敢にも敵の大将を討ったのです」

 私はその言葉に驚く。人々も驚く。しかし私の手の中にある血に濡れた短剣を見ると納得し、歓声を上げる。彼らは私を取り囲み、口々に私を賞賛する。私は呆気に取られながら、彼らの手もまた血に塗れていることに気が付く。

 私は戸惑い、傍らに立つサラを見る。と、娘もまた私を見ている。その瞳はいつものように美しく、金色の光を湛え、女神のように輝いている。

 しかしその口辺には、これまで見たこともない、謎めいた微笑を湛えている。

 私は島の王となる。

 

場面四

 

 私は年を取り、王の地位を退いている。そして住み慣れた島を離れ、今では別の住みよい島に移り、平穏な余生を過ごしている。

 私は椅子に座り、穏やかな海を眺める。足元には優美な姿の獣が横たわり、安らかに寝息を立てている。この獣は前の島を守護していた精霊の化身なのだが、私のことを気に入って付いてきてしまったのだ。

 美しい精霊の姿を見下ろし、私は過去を回想する。あの時、私は怒りに任せてあの男を殺した。しかしそれは、果たして正しい行いだったのだろうか、と。

 思えばあの時、彼は何かを懸命に訴えようとしていた。突然現れた私の姿に狼狽し、怒り狂って飛び掛る私に向けて、懸命に振っていた両手。……あれは、自分の無実を訴えようとしていたのではなかったか。

 あの男は本当に、娘に乱暴しようとしていたのだろうか?それとも……

 その時、眠っていた精霊がふと眼を醒まし、優雅な仕草で私を見上げた。私も埒もない空想から醒め、その獣を見下ろす。

 その瞳は美しい、金色の輝きを放っている……。