『かわいい女』 チェーホフ著 新潮文庫とか他色々

 

 これも家にあった世界文学全集の中にあったから読んだもの。チェーホフだから今でもあちこちの文庫で読めるんだろうけれど、自分から求めて読むことは多分無かっただろうな……と思える作品。正直、別に好きな作品というわけではなく、それでも一言せずにいられないので書くことにした(好きでもないのに気になる辺り、やはり名作ということなのだろうか?)。

 まず、これはとても短い。内容は、女主人公(名前忘れた)がある男と結婚する。二人はとても幸福な結婚生活を送るが、男は事故だか病気だかで死んでしまう。未亡人になった主人公は落胆する(しかし記憶力ゼロだな自分)。

 そんな感じで悲しんでいた主人公だが、やがてまた一人の男と出会い、再婚する。主人公はまた幸福な生活を送るが、またもや夫に先立たれてしまう。主人公はまた悲しみ、それまでは街の皆に愛されているような可愛らしい感じだったのに老け込んでしまう。しかしまた第三の男が現れ……という話。

 まあこう書いてしまうとなにも伝わらないだろうが、チェーホフが書きたかったのは、この女が完全に男(恋人・夫)に依存しきっているということだろう。この女は夫ができるたびに、その夫が自分の全てになってしまう。夫が材木商ならば、自分の関心も材木業界のことだけになる。夫が医師なら、その業界のことだけ。実の息子のような子供ができれば(実際は違うのだが)、その子供が通う学校や教育のことだけが関心の対象になる。つまり主体性というものがまったくない。ていうか、「自分」というものがない。そして『かわいい女』というタイトルは、まさにそういう主体性のない部分を指して「かわいい」と言っているらしいのだが……。

 しかし。と、思わずにいられない。

 こんな女、本当にかわいいか?

 たしかに、そういう見方もあるのだろうとは思う。男から見たら、そこまで自分を思ってくれる女は可愛く思えるのかもしれない。尽くす女、というのとはちょっとニュアンスが違う気がするが。それに外国の作家の作品とはいえ一世紀以上前の作品なわけで、ある程度の男尊女卑傾向は仕方ないと思うべきかもしれないが。

 ではあるが。その辺を考慮しても、やはりいくらなんでも……と思わずにいられない。この女、可愛いか?こんな女が自分の近くにいたら、正直イライラせずにはいられないと思う。そんな女を見たら、自分だったらその肩を掴んで、力いっぱいガクガク揺さぶりながら、「あんた、それでいいのか。本当にそれでいいのかッ」と繰り返し繰り返し叫ばずにはいられないだろう。……いや、もちろん本当にやりはしないけど。

 だから読み終わったとき、これは皮肉の意味で書いてるんだろうなと思った。いくら前世紀(前々世紀?)の作品だろうと、こんな女を何のひねりもなく素直に「かわいい」などというわけはないと思ったのだ。作者であるチェーホフにもそんな無邪気なイメージはないし。

 それで一応気になって解説を読んだり、ネットの書評とかを見た。すると驚いたことに、チェーホフは本当にこんな女を可愛いと思っていて、それでこんなタイトルをつけたらしい。まさに驚天動地である。

 ……とはいえ、事情はそう単純でもない。

 最初チェーホフは、やはり皮肉の意味でこの「かわいい女」という作品を書こうと思っていたらしい。しかし実際に書いていると、次第にこの女主人公が、(皮肉でもなんでもなく)本当に可愛らしく思えてきたのだという。だからこのタイトルの「かわいい」というのは、素直に受け取っていいとのこと。

 うーん…………深い(?)。てっきり皮肉の意味かと思いきや、一周回ってしまうとは。チェーホフといえば人間に対する鋭い観察眼でも定評がある(らしい)から、読者であるこちらとしても穿った見方など捨て、素直にこいつを可愛いと思わなければならないのか。

 ……しかし、そうした事情を踏まえてもやっぱり(しつこく)思うのだが、この女って可愛いか?ちっともそう思えないのだけど。こちらの読みが足りないのかな?

 ネットの書評なんかを見ると、この「一周回ってかわいい説」に納得している意見が多いみたいなのですが。……そうかな?可愛い……かな?わからん。私の読みが浅いのかな?

 どこかで誰かが、「チェーホフの作品のよさは若い者にはわからん」的なことが書いてあったのだけど、そういうことだろうか?読書っていうのはその人の感性次第で、「若い者にはウンヌン」なんて偏見以外の何物でもないと思っていたんだけど、案外そういうものなのかな……。なんか自信なくなってきた。

 この女の可愛さってのは、中年のおっさんが若い(上辺だけ)素直な女を「かわいい」とか言ってのぼせ上がっちゃうようなものじゃなくて、例えば、神様を純粋に信じていた中世の頃の農婦みたいな、そんな純朴さみたいなものなんだろうか?それなら理解……でき……いや、やっぱりわからん。そういう生き方もあるとは思うけど。

 ……まあいいや。

 とにかく、現段階では(少なくとも私は)この女がかわいいとは思えません。たぶんそれは年を取っても変わらないような気がする。まあ、実際に年をとってからじゃないとなんとも言えないけれど。

 まあ、あれです。感想は人それぞれ、ということで。